農業分野
基幹産業の、持続可能性の危機
担い手の高齢化と後継者不足。市内の販売農家4,320戸のうち6割以上が、農業だけでは生計を立てられない副業的農家です。 ほ場整備といったハード面が進む一方で、農作業を担う「人」の不足は依然として深刻なまま。 整備された農地を将来にわたって維持・活用していく、新しい仕組みづくりが急がれています。
agriculture x welfare
BALLOONの農福連携は、一つの事業所の中だけで完結するものではありません。農業法人・若手農業者・行政・福祉団体が手を取り合い、「点」の取り組みを「面」の地域づくりへ広げています。
栗駒山の雄大な自然に抱かれた栗原市は、豊かな食と農に恵まれた中山間地域です。 けれどその足元では、ふたつの課題が同時に進んでいます。
農業分野
担い手の高齢化と後継者不足。市内の販売農家4,320戸のうち6割以上が、農業だけでは生計を立てられない副業的農家です。 ほ場整備といったハード面が進む一方で、農作業を担う「人」の不足は依然として深刻なまま。 整備された農地を将来にわたって維持・活用していく、新しい仕組みづくりが急がれています。
福祉分野
栗原圏域には5,000人を超える障害者手帳をお持ちの方が暮らしています。 障がいの有無にかかわらず、さまざまな理由で社会との接点を見出せずにいる方も少なくありません。 「自分のできることから始めたい」という願いに対して、地域は十分な受け皿や居場所を用意できているとは言えない状況です。
課題の交差点にあった「連携の壁」
農業側には「人手さえあれば、もっと作付けを増やせるのに」という声があり、福祉側には「働きたい」という声がある。 それでも両者がすぐに手を結べなかったのは、農業法人側の障がい者雇用への理解不足と、福祉法人側の農業への理解不足という、 意識の乖離があったからです。BALLOONは、この壁のちょうど真ん中に立つためにつくられました。
行政や特別支援学校の要望を受け、有限会社耕佑が水耕栽培の現場で障がいのある方1名を雇用。あわせて地域の福祉事業所への施設外就労の委託も始まる。
外部のA型事業所への作業委託は年260万円に。けれど工賃が作業時間で決まる仕組みでは、腕を上げても本人に返らない——その課題に向き合いはじめる。
廃業寸前だった地域特産の舞茸生産を承継。直接雇用は3名になり、うち1名が一般就労を実現した。視察の受入もこの年14名から始まる。
5月に地域のA型事業所が閉所し、利用者が行き場を失う。7月、BALLOONがA型5名・B型1名を受け入れて開所。同月「ナビゲーションマップ」を導入した。
B型の平均工賃が41,879円と前年比1.7倍に。A型9名・B型5名の14名体制となり、10月には7団体で「くりはらアグリコンソーシアム」を設立した。
A型10名・B型5名の15名体制へ。ナビゲーションマップのデジタル化とICF業務分析の実装を進め、地域の農家が農福連携を導入できる形に整えていく。
smart agriculture
作業の工夫や丁寧な声かけといったソフト面の努力だけでは、身体的な負担の大きさから参加できる作業が限られてしまう。そんな限界に、私たちは何度も直面してきました。この「物理的な壁」を越えるため、機械設備とAIの専門家をコンソーシアムに迎え、作業適性のマッチング、タブレットによる作業手順の可視化、作業記録の自動集計による工賃計算の省力化に取り組んでいます。
agri-welfare
農業の「人手が足りない」と、福祉の「働く機会が足りない」。このふたつを結びつけるのが農福連携です。BALLOONは就労継続支援事業所として一人ひとりの特性に寄り添いながら、受入先である農業法人の現場との橋渡しをします。農産物の生産という確かな仕事があるからこそ、それは訓練ではなく本物の仕事になります。
universal agriculture
人が作業に合わせるのではなく、作業を人に合わせてつくり変える——それがユニバーサル農業の考え方です。作業を細かく分解し、道具や工程を工夫すれば、農業は誰にとっても働きやすい仕事に変わります。障がいのある方のための工夫は、高齢者にも、新人にも、外国人にも効いて、現場全体の生産性を高めます。ナビゲーションマップも機械開発も、この考え方の実践です。
育てた野菜が地域の食卓に届き、その経済がふたたび農業を支える。 人と資源が地域のなかをめぐる循環こそが、農福連携の目指すかたちです。
BALLOONの施設外就労の受入先である有限会社耕佑は、 栗原市一迫でサラダ菜・サンチュ・みつばなどを育てる水耕栽培の農業法人です。 利用者のみなさんは、首都圏のスーパーにも並ぶ本物の野菜づくりの現場で、定植から収穫・調製までを担っています。
耕佑の障がい者雇用の考え方は「他の社員と同様に、一人の従業員として認識する。特別な線引きをしない」。 BALLOONの理念「Think local, Think normal.」は、この現場の実践と重なり合っています。 現在は耕佑の代表・伊藤秀太がBALLOONの代表理事を、常務・三浦史紀とBALLOONを立ち上げた藤田承紀が副代表理事を務め、農業と福祉を一体で運営しています。
収穫の40%
耕佑のサンチュ収穫量のうち、A型利用者が担う割合
定植の100%
定植作業は、ほぼすべてをB型利用者が担当
視察403名
令和5〜7年度の受入数。東北農政局・宮城県・支援学校・宮城刑務所・台湾教育部など
耕佑が最初に特別支援学校から受け入れた青年は、14年目を迎えた現在、健常者を含む新人パート職員に作業を教える立場として活躍しています。 BALLOONでも、「毎日通える」「仕事に楽しく取り組める」「一人で作業ができる」の3つがそろった利用者の、一般就労への挑戦を後押ししています。 ナビゲーションマップの導入により、利用者の作業スピードは平均1.8倍に向上し、できる作業の種類は2倍に増えています。
そして育てた野菜は、「障害者が作った野菜」としてではなく、「品質で選ばれる野菜」として大手スーパーや飲食店に納品されています。 健常者も、障がいのある人も、外国人も、ひとつのチームで同じ目標を追いかける。それが耕佑とBALLOONの現場です。
年間15名が延べ約2,900人日、基幹作業に従事しています。任せられる仕事が増えたことで収穫計画の精度が上がり、 耕佑は大手量販店への販路を広げました。売上高は令和3年の1億5,174万円から令和7年には1億9,015万円へ。 売上総利益率も令和5年の12.1%から令和6年には30.7%に改善しています。
いずれも令和3年と令和7年の比較(働き手は耕佑の直接雇用とBALLOON利用者の合計)。 障がいのある方に地域から還元される所得が、4年で約4倍に増えました。
award 2026
第14回 富県宮城グランプリ
「みやぎの食」振興部門賞 受賞

「サンチュ等の葉菜類の水耕栽培により、年間を通じて高品質な農作物を安定的に供給できる体制を構築し、 大手企業との安定取引により販路を大幅に拡大するなど、食産業分野における地域産業振興に貢献している」。 宮城県が県内産業への貢献を表彰するグランプリで、耕佑の農業経営とその現場を支える農福連携の取り組みが評価されました。
2012
全国農業コンクール
優秀賞
2014
GLOBALG.A.P.
認証取得
2018
持続可能な農業推進コンクール
東北農政局長賞
2025
宮城県園芸振興大賞
受賞
BALLOONの農福連携の出発点となったのが、休眠預金等活用事業(JANPIA・一般財団法人日本民間公益活動連携機構)による 「福祉内製化事業」です。資金分配団体・株式会社クロスエイジの「九州のスター的な農家による農福連携事業」の採択を受け、 有限会社耕佑が実行団体として、2023年4月から2026年2月までの約3年間、 水耕栽培という「作業の標準化がしやすい農業」を活かして、農業法人が自ら福祉事業を内製化する挑戦に取り組みました。
この事業を通じて、BALLOONの設立(2023年12月)と多機能型就労継続支援事業所の開設(2024年7月)を、 計画より前倒しで実現。背景には、2024年の報酬改定で地域のA型事業所が相次いで閉所し、 行き場を失う利用者の受け皿づくりが急務となったことがありました。 現在、栗原地域で稼働するA型事業所はBALLOONを含めて2事業所のみ。地域の障がい者就労を支える存在になっています。
利用者14名(A型9名・B型5名)
月10〜20万円の黒字化
研修会に403名が参加
順風満帆だったわけではありません。農業のやり方をそのまま福祉に持ち込もうとした失敗もありました。 それでも、作業を細かく分解してみると、障がいのある方が向いている工程が見えてきた—— 2024年春に近隣のA型事業所が閉所した際には、行き場を失う利用者の「緊急の受け皿」として機能し、 この対応が地域の福祉関係者との信頼を築き、のちのコンソーシアム設立にもつながっていきます。
「スタッフの意識が自然に変わって、『障がい者雇用』という言葉を意識しなくなったとき、本当の共生が始まった。 一気に変わるわけではないが、仕組みを作って地域で共有していくことで、少しずつ変わってきた実感がある。」
— 伊藤秀太(事後評価報告書より)
事業は外部の評価専門家の関与のもとで事後評価が行われ、課題・ニーズの適切性、事業設計の整合性、実施状況、 成果の達成度のいずれも「想定した水準以上」と評価されました(実行団体事後評価報告書・2026年2月)。 報告書は「社会性×事業性×革新性を具現化するモデルを構築できた」と締めくくられています。
合同会社くりはらファーマーズラボは、「農業をやりたい」という同世代を増やしたい。 そんな想いで集まった栗原の若手農家を中心に、料理人やデザイナーも加わる「くりはらファーマーズプロジェクト」から生まれたチームです。 地元の生産物と食文化を広めるため、飲食店への農産物の販売、6次産業化による商品開発、 「テロワージュくりはら」など食のイベントの企画運営などに取り組んでいます。
BALLOONとの協働で大きいのは、B型の仕事づくりです。 「たべるケールオイル」「たべるトマトみそ」などの瓶詰めシリーズや、耕佑が地域の生産者から事業承継した舞茸を使った 「乾燥まいたけ」のシール貼り・袋詰めといった商品仕上げの作業を、BALLOONのB型利用者が担っています。 一つひとつの作業には写真付きの手順書が用意され、衛生管理のポイントまで丁寧に言語化されています。「作業を人に合わせてつくり変える」考え方は、畑の外のこうした仕事にも生きています。
地域の畑から生まれた野菜が商品になり、その仕上げをBALLOONのみなさんが担い、ラボが地域内外へ届ける。 「地域循環」の小さな見本のような協働です。商品はファーマーズラボのオンラインショップ ↗で販売されています。



2025年10月29日、農林水産省「農山漁村振興交付金(農福連携型)」の採択を受けて、 地域の農業法人・福祉事業所・ICT企業・行政による協議会「くりはらアグリコンソーシアム」(代表:伊藤秀太)が設立総会を開きました。 テクノロジーの活用によるユニバーサルな就労環境の構築と、多様な地域人材の活躍を両輪に、 障がいのある方だけでなく、高齢者やひきこもり状態にある方も含めた「地域全体の受け皿」づくりを進めています。
※ 図は横にスクロールできます
| 有限会社耕佑 | 協議会代表・事務局運営・農業生産 |
|---|---|
| 合同会社くりはらファーマーズラボ | 農商工連携・商品開発・マーケティング・イベント企画運営 |
| NPO法人BALLOON | 障がい者就労継続支援。農福連携プログラムの共同開発・専門的助言 |
| 株式会社ダイチ | 漢方和牛・漢方三元豚の生産供給。飼養管理作業の提供 |
| 栗原市農林振興部 農政園芸課 | 行政の立場から活動を支援 |
| 農事組合法人ファーム南栗原 | 農事組合の立場から活動を支援 |
| NPO法人栗原市障害者就労支援センター | 地域の福祉ネットワークを活用した参加者紹介 |
ナビゲーションマップの整備
農作業をタスク単位に分解し、難易度と価値(工賃)を設定。障がい特性に応じて「できる作業」を選べる地図をつくる。
特性に合った機械開発
ガオチャオエンジニアリングと連携し、障がいのある方が安全かつ効率的に作業できる農業機械・補助具を開発する。
ICFコードによるマッチング
日立ソリューションズ東日本と連携し、WHOの国際生活機能分類(ICF)を人材配置に応用。得意な作業の特性から、次に活躍できる作業を推察する。
農福連携に関心のある農業者・福祉事業者・企業の方は、お気軽にご相談ください。
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